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南洋のライ
charcoal, kneaded eraser, 2014
自身の初個展において発表した作品で、今後も同テーマでの継続的な制作をする。以下に個展時のステイトメントを記載する。
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価値の物語について
東京都千代田区の日比谷公園には、母方の曾祖父が大正14年にヤップ島(注1)から日本に寄贈した石貨(石のお金)が置かれている。石貨は、サイズも重さも様々であるが、なによりもそれが持つ来歴(それがどのように作られ、運ばれ、使われてきたか)が重要とされる。円やドルなどの近代貨幣が画一的な量的価値を持つのに対し、石貨はそれぞれが持つ物語の重みと、それを話す語り手の話術が価値を左右するという。
この一見変わったお金を、曾祖父はなぜわざわざ日本まで運んできたのか。そんな素朴な疑問を出発点とし、私は石貨と曾祖父についての継続的なリサーチワークを行うことにしました。本展「南洋のライ」はその実践の初めの一歩と位置付けられます。タイトルにもあるライ(rai)とはヤップ語で「石貨」という意味を持ち、もともとは「クジラ」という意味もあるが、それが石貨という言葉を指すことになったのは、石貨の起源とされる民話(注2)がもとになっているそうです.
本展は、物とその背景にある物語の関係性や、物語を伝達することの困難をテーマとし、曾祖父と近しい人物への取材などを編集したテキスト、鑑賞者の参加によって完成されるオブジェ作品で構成します。
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私は作品制作にあたって曾祖父の親族にインタビューを行った。インタビューでは曾祖父が石貨を日本に運んでくる経緯までは聞くことができなかったが、曾祖父の戦時中のエピソードや、石貨が設置された日比谷公園の説明書きの看板が壊された話など、曾祖父と石貨にまつわるさまざまな話を聞くことができた。私はこの展覧会の前にこれらのインタビューの文字起こし文を、画廊の壁に木炭で書いていった。そして最後にインストラクションが書かれた紙を壁に貼った。そのインストラクションには、「来場者がこのテキストを練りゴムを使って自由に消してもらうこと」、「使い終わった練りゴムを画廊内の展示台の上に置いていってもらうこと」が記されている。このインストラクションを読んだ来場者によって、壁の文字は毎日少しずつ消されていった。来場者が使った練りゴムは、私が会期中につなげ合わせて石貨の形状に作り替えた。