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mixed media, 2015

 

 

   陽明館は大正時代に建てられたもので、和洋折衷の様式を持った立派な別荘建築だが、現在はここを別荘として利用している人はおらず、また建物の劣化が進んでいるため住める状況でもない。しかし、過去にお茶会会場や宿舎としても使われ親しまれていたこの建物を保存しようという声が現在一部の熱海市民の中であがっている。わたしはこの建物に一カ所、別荘というにはあまりにも質素な部屋を見つけた。どこにでもありそうな台所と居間で、別荘が持つある種のユートピア的な空間とはほど遠い、生活の跡が残されている。わたしはこの部屋がもつ”誰のものでもありそうで誰のものでもない”という点に着目した。
  

   私はこの場所で音声による作品を展示した。熱海市内の複数の女性に母親役を演じてもらい、子どもの帰りを待つ母親の心境で私の携帯電話に伝言を残してもらった。それらの留守番電話の音声を会場で流した。実際にはPCから音声を流しているが、会場となった部屋に残されていた電話から流れているように見せた。

 

「早く帰ってきなさい」「いまどこにいるの?」

 

と怒りと不安を含んだ母の声が留守番電話の記録時間を伝える無機質なアナウンスの合間に流れてくる。居間と通路を隔てるドアは20cmほどしか開いておらず、中に入ることはできなくなっているため、鑑賞者はそのわずかな隙間からその音声を聴き、ごく平凡な台所、居間を覗き込むことになる。

 

   鑑賞者にとって、どこにでもある平凡な居間でこの音声を聞くのは違和感があるかもしれない。外で遊んでいて親から帰りを心配された経験は誰しもあるだろうが、通常このメッセージを聴くときは自分は家にはいないのだから。しかし、懐かしさのあるこの部屋は私の家ではないし、この言葉を聴いたとき、想起するのは帰りを待っている家かもしれない。自分の住んでいる家(またはかつて暮らしていた自分の実家)はこの部屋に似ているかもしれないが、「他人のもの」と「私のもの」という点で決定的に違う。

  

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